ここ2週間の間、個人的に非常に気になるニュースがある。なるべく最新の、かつ信頼性が高く中立な情報を読んだり、見たり、聞いたりしたいと思いながら情報収集している。何のニュースかと言えば、イラン大統領選挙と選挙後の混乱だ。
選挙前
大統領選挙は12日だったが、選挙前は結構穏やかだった。
「どちらが勝つんだろう?」「予想がまったくつかないね」
そう周りと話してた。でもそれが選挙1週間ほど前から行われたテレビ討論をきっかけにヒートアップ。その討論の内容は、大統領選挙の討論かと苦笑してしまうくらい、肝心な事以外でぎゃあぎゃあと言い合い。イラン人らしいと言えばイラン人らしいか。しかしそのノーガードの打ち合いが、くすぶっていた民衆に火をつけた。4名の立候補の支持者、とくにアフマディネジャド大統領(現職)と、ムサビ氏の支持者達の応援合戦はすごかったようだ。
下馬評
半年くらい前から、主に現地のイラン人に「大統領選挙はどうなるでしょうかねぇ」と聞いていた。答えは皆一様に「わからない。まったく予想がつかない」だった。ただ、もしアフマディネジャド大統領が立候補すれば、大統領が優勢になるんじゃないかと思う、と述べた人も結構いた。とはいうものの、下馬評では優先と伝えらている立候補者が落選するのが最近のイラン大統領選挙。アフマディネジャド大統領も、ハタミ前大統領も、いわゆる大穴で勝った人たち。
海外メディアは主にテヘランの様子やテヘランの人々の意見を流すが、テヘランとテヘラン以外、とくに農村地帯とでは大違いだ。考え方も、服装も、信仰の強さも、収入も。いろいろな事が違う。URLを失念してしまったのですが、選挙前の記事でBBCの記者がpolarized(=偏向した、分極した、偏極した)と表現しているのは、その通りだと思う。
選挙後
イランとはそのような情勢なので、実はアフマディネジャドが勝利することには何も驚きはない。選挙直前の様子を考えると、アフマディネジャド大統領が勝てばムサビ氏支持者がデモをし、ムサビ氏が勝てばアフマディネジャド大統領支持者がデモをする。そんな事になっていただろう。
でもアフマディネジャド大統領はやりすぎた。農村はともかく、ムサビ氏優勢の都市部でさえもアフマディネジャド大統領圧勝はちょっと信じがたい。もちろんその確たる証拠はない。でもやっぱりおかしい。それがムサビ支持者と国外の感想だ。
デモと複雑さ
その後、デモが行われているのはご存じのとおり。現地の人によると、デモはテヘランだけでなく、国内のいたるところ(主に都市部)で行われているらしい。その中には純粋に選挙のやり直しを求めている人。その勢いで現政権を力をそぎ落としたい人。さらに民主化してほしい人。何も関わっていないのに、政府側から今回のデモにかかわったと暴力を受けた人(主に学生に多いらしい)。何かよくわからんけど、Joinしている人。何かよくわからんけど、とにかく暴れたい人。ただただ日頃の不満をぶちまけたい人(ただしこういう人達は、真剣にデモを行っている人たちから止めるようにと非難を受けてるらしい)。いろいろな人達が参加している。でもそれと同じくらいの人たちがアフマディネジャド大統領を支持している。
ほんと複雑です。行ったことがあるから偉そうに言うわけではありませんが、ほんとにこれは現地を肌で感じないとなかなか分かり得ない情勢だと僕は思う。日本のそれとも、欧米のそれとも違う。またさらにややこしい事に、そこへ宗教の価値観だとか、富裕層VS貧困層だとか、教育の違い(普通の学校、留学、神学校、、、)、法律で禁止されている衛星放送を受信できているかとか、インターネットの有無とか、アメリカに対する価値観の違いとか。今回のこのデモ=民主化を希望している人たちのデモ、などと簡単にはまとめられない。
重要なターニング・ポイントとなりそうな今週末
今週末は、今後少なくとも数週間のイラン情勢を占う非常に重要な週末になりそう。昨日、金曜日に、イラン最高指導者のハメネイ氏が「デモを止めるように」との旨のスピーチをした。この人の影響力は絶大だ。制度上、最高指導者を失脚させる事は可能だけど、それはほぼない。これまでのデモは、各自いろいろな思いがあれど、名目上それは選挙のやり直しを訴えるデモだった。しかし、このハメネイ氏の声明を無視して、デモを行うということは、アフマディネジャド政権ではなく、さらにその上の、現イスラム国家政権に対してデモを行うということになる。
もしそのようなデモが行われたら、イスラム革命が起きて30年、初めての事になる。イランでは、そのような事を行うと、当局に目をつけられ、刑務所送りどころか死刑になる可能性すらある。つまり、これまでデモに参加してきた人たちはとてつもない勇気を振り絞って、リスクを承知で行ってきたが、これで本当に自分の命をリスクにかける、文字通り、命をかけてのデモになる。
見通し
どちらにしろ、同僚のイラン人も、現地にいるイラン人も、イラン訪問歴が長い人さえも、まったく先行きが分からない。Twitterの事も含めて(またそれは書くつもりです)、いろいろな角度から世界中の人達が注目している。それに比例して、日本での報道の少なさには憂いている。
リンク
- BBC NEWS | Special Reports | Iran (BBCのイラン特別レポート)
- Iran protests: live – 20 June 2009 | News | guardian.co.uk (イランから英ガーディアン紙の記者がブログを使ってライブ)
- Iran: Election in Iran – Los Angeles Times
- 海外 – 毎日jp(毎日新聞) (日本の報道機関でここが一番記事が多いと思う。ただし、特定のトピックスの記事、たとえば「イラン」、の一覧表示ができず、関連記事リストの精度もイマイチ。)
- イランという国で (テヘランの大学で講師をしてらっしゃる日本人女性のサラさんのブログ。必読。)